Symphony V

「なんだよ、こっちは金払って」

「その金は誰が上あげてんだい」

言いかけた巧は、おばちゃんの一言に、うっと言葉を詰まらせた。

「唯ちゃんみたく、ちゃんと自分で働いたお金で買ってるならまだしも、あんた、バイトもしないで金くれ金くれって。ちょっとはみならいなさい!」

おばちゃんに言われて、巧の顔がみるみる赤くなっていく。

「う、うるせぇばばぁ!」

「な!?」

捨て台詞を吐くと、商品をひったくるように奪って、巧は店を出て行った。

「まったく!ほんとに、誰ににたんだか」

呆れ口調でおばちゃんが言う。


中学校時代は、あんなふうじゃなかったと思ったんだけどなぁ。


同級生だったとはいえ、よく喋ったりしたことがあるわけじゃない。どちらかといえば、巧は人気者で、唯は少し大人し目の、あまり接点のある間柄ではなかった。
元気で、明るくて。みんなの中心的な人物。
唯は、そんな巧を少しだけ、羨ましく思いながら、いつも見ていた。

「なんだか少し、巧くん、雰囲気変わりましたね」

ぽつりと唯がこぼすと、おばちゃんは少し寂しそうな表情で頷いた。

「少し前までは、あんなんじゃなかったんだけどねぇ」

中学生と高校生。
正直、特に高校生になったからといって、自分が何か変わったわけでもない。

でも、少しだけ。
大人になったような気がして。


少しだけ、気が大きくなっているように、時々感じる。


別に、何も変わっていないのに。

そんな自分に気づいたとき。
少しだけ。

なんともいえない、もやもやしたものが。
心の中に広がって。


自分のことが恥ずかしくて。



嫌いになる。