学園(吟)

家に着くと、見慣れぬ皮靴があった。

しかし、知らないわけではない。

「これ」

「帰ってるアルか」

家にいない事が多い大黒柱といってもいい家主。

葉桜耕一さんだ。

「どうしたんです?」

廊下の置くから顔を覗かせたのは、渚さんだ。

「ちょっと色々あって、それより、伯父さんが帰ってるの?」

「今さっき帰ってきたんですよ」

渚さんの後ろから姿を見せたのは、耕一さんだった。

「吟、お前は何をしている?」

静かに告げる言葉には、重圧がかかる。

「アチシの勝手アル」

しかし、吟ネエは全く気にならないようだ。

「面白い事を言う」

「面白いのは耕一が仕事の都合で家を空けて、渚が一人で慰めてるシーンアルよ」

「おい、吟ネエ、何を言い出すんだ」

親子の関係は決して良い物ではなかった。

渚さんと吟は付かず離れずの関係で、悪くはない。

だが、耕一さんと吟ネエの間には何か言い知れぬ空気があったのだ。

「あら、吟さん、それは内緒の約束ですよ」

渚さんは嗜める事はしない。

「表へ出ろ」

「いいアルな。アチシも骨のあるのと喧嘩をしたかったアルよ」

一体、どうしてこうなったのか。

親と娘が殴り合いなんて、どこの世界にあるのか。

吟ネエは確かに強い。

耕一さんの実力がどれだけの物なのかは、まだ知らない。

「これ、持ってるアル」

酒の袋を俺に渡すと、表へ出て行こうとする。

「おいおい、本気でやるのかよ」

「耕一に遊びは通用しないアル」

二人とも本当に喧嘩をするつもりだ。