学園(吟)

吟ネエを見ると、外を眺めていた。

視線を追ってみると、電柱に貼り付けられているチラシを見ているようだ。

遠くてよく見えないが、ろくでもない物なんだろうと思う。

「何見てるんだ?」

「ラブな薬が1980円アル」

明らかに怪しいとしかいえない答えだった。

「見えるのかよ」

10メートル離れた位置の小さな文字を読んでしまう吟ネエの視力は3あたりあってもおかしくはない。

「フッフッフ、どんな距離でもいい男を見分けるのも何のそのアル」

もうちょっといい方向に有効活用してもらいたい。

「今思うと、吟ネエのステータスって異常だよな」

RPGで初期から仲間にいると頼もしい。

しかし、たまに必要のない事をして、プレイヤーを困らせそうだ。

「他の奴らが軟弱なだけアル」

「普通なら何人もの男を殴り飛ばす事は出来ないぜ」

「アチシに殴られてるようじゃ、天は取れないアルよ」

「いや、誰しもが高みに目指すつもりはないと思うけどな」

いつもながらの吟ネエがいる。

幸せだと思える一時だな。

「今日も言うが、お前は本当に変わってる奴アルな」

「そう、かな?」

「アチシについてきたところで、お前が不幸になるだけアル」

「俺の心配をしてくれるなんて意外だ」

本当に驚いた。

どういった心境の変化なのだろうか。

「隣で廃人になって倒れられても処理に困るアル」

心的ショックで廃人にでもなるというのか。

俺は吟ネエの手を握り締める。

「吟ネエの言う通り辛い事はある。他人から見れば不幸ととられるかもしれないし、自分もしんどいと思うかもしれない。でも、吟ネエの声、顔、身勝手なところが傍にあるなら、不幸を押しつぶしてくれるんだ」