学園(吟)

俺と吟ネエは手を繋いだまま、中華飯店『トンファー』に辿り着いていた。

「吟ネエ、来たのはいいんだけどさ、お金はあるの?」

福沢さんの顔を持ったピン札1枚を人差し指と中指で挟んでいる。

「一万円なんて、どうしたんだ?」

「アチシの趣味は貯金アル」

嘘にしか思えない。

あれだけ酒にお金を使っているんだから、金なんてないに等しいはずだろ。

そうか。

きっと、援助してもらったんだな。

「はあ」

汚れたお金なんて駄目ですと手を叩く気は起こらない。

そんな気高いプライドなど、俺にはなかった。

犯罪行為ではあるが、吟ネエが稼いだ金には違いない。

何度も言っているような気がするが、本気で好きならば叱り付け真っ当な道に戻す事が吟ネエのためだろう。

でも、どんな方法であれ、吟ネエが稼いだ金ならば本人が使えばいいじゃないか。

一応、汗水たらしたんだ。

それに、誰かがお金を払って床を共にするのは、吟ネエに魅力があるからだろ?

ま、飢えてる奴が金を払ってやるって事もあるんだけどな。

さっき聞いた言葉があっても、些細な事だと鼻で笑う事は出来ない。

吟ネエの気持ちが冷めれば、俺も援助交際の奴らと同じような目で見られかねないからだ。

だからって、疑心暗鬼に陥ったり、やる気を失ったりはしないさ。

「じゃあ、今日は吟ネエの奢りって考えてもいいのか?」

「ふっふっふ、今日のアチシはダ〇アンド・ユカイアル」

いつも脳みそが愉快なのだが、そこは置いておくとしよう。

店の中に入ると赤と白を基準としており、100席くらいはあるようだ。

壁や床には汚れはなく、綺麗にしてある。

店内はスーツを着た人や家族連れがいる。

前から噂には聞いていたが、席が大体埋まっているところから、繁盛はしている。

「何名様ですかあ?」

金髪に近い女の人が間の抜けた声をかけてくる。

飲食店で金髪にしているのは、評価を下げる要因になるのではないだろうか。

しかし、味に自信があるからこそ、席が埋まっているのだろう。