学園(吟)

「しょうのない奴アルな」

「おわ!」

廊下の真ん中でいきなり俺を抱きしめる。

周りの生徒達が一斉にこちらを見るが、また葉桜吟かと思い、いつもの日常に戻る。

俺達二人の時間。

髪から香しい匂いが漂う。

俺は緊張しているのか、身体が硬直しているようだ。

「我愛仁」

耳元で囁いたのは中国語だった。

しかし、何故に日本語ではないのだろうか。

吟ネエが照れ隠し?

あまり考えられないんだけどな。

抱きしめたまま、数秒過ぎても顔を見せない。

判断のしにくいところだ。

でも、信じると言ったからには、冗談で言ったとしても本当だと思いたい。

騙されていたとしても、後悔なんてない。

「吟ネエ」

「んー?」

「そろそろ、教師が来るよ」

「まだまだ足りないアルなあ」

教師がこれば、足りる足りないの問題じゃなくなる。

加藤教師がこれば尚更の話である。

「吟ネエの気持ちはよく解ったよ。とても嬉しいし踊りたくなる。でも、吟ネエはお腹が空いてるんだろ?」

「お前がそういう事い言うから、思い出したアル」

俺の手を掴むと駆け出した。

「ちょ、ちょっと!飯は逃げないってば!」

「今のアチシの性欲は銀河よりも大きいアル!」

いつもはどれくらいの大きさなんだろうと疑問を持つものの、速すぎるスピードに体勢を立て直す事ですぐにかき消された。