学園(吟)

「じゃあ、頼むぜ」

「ししし、驚きすぎて落ちないように股間にしっかり力を入れるアルよ」

気合を入れなおすために一息吐いた。

理由がどうあれ、暴力を振るう事が好きなら存分にぶつけてもらおう。

「来い!吟ネエ!」

吟ネエは脇を締め、光速の一撃を顔面へと放つ。

歯を食いしばり、全精神を頬に集中させる。

刹那、スローに見える拳が頬を捉え、次第に奥へと押し込まれていく。

「ぐう」

一気にスピードが戻るが、俺は首に力を入れていたおかげで飛ばされることはなかった。

だが、今までの中で一番痛い。

奥歯が逝った、首が飛んで逝きそうにもなった。

「最高の一発だったぜ」

口の中に違和感があるので、折れた奥歯と血を吐き捨てる。

吟ネエは俺の顔を見つめている。

「お前みたいな奴がアチシにこだわる理由は何アルか?」

「イツツ、吟ネエは優しいからさ」

「ほう」

「自分じゃ意識してやってないと思う。だけど、俺には大きかったんだ」

頬にめり込んでいる拳を掴んで、吟ネエの顔の近くまで辿り着く。

ずっと俺の話に付き合っててくれた吟ネエ。

本当なら放っておいてもよかったんだ。

何をしてきたにしろ疲れてるんだろうし、すぐにだって自分の部屋で寝る事だって出来た。

飯が目的だったとしても、話してくれていた事には変わりない。

「拳、痛いだろ?ごめんな、余計なことにつき合わせて」

俺を殴った右拳を両手で優しく包む。

「お前、本当に馬鹿アルな」

吟ネエは俺の頬を猫のように舐める。

「吟ネエ?」

「最高の治療法アル」

舐めたくらいで痛みが引くとは思えなかったが、何故か嬉しかった。