学園(吟)

雨が一粒、二粒と地面を叩きはじめ、すぐに様々なリズムを奏でて世界を水浸しにする。

吟ネエはロベリアを濡らすまいと抱えて、一段下に飛び降りた。

登るのは時間がかかるが、降りるのは簡単である。

俺も吟ネエの後を追いながら、屋内へと駆け込んだ。

「やっぱ、降るのかよ」

少々濡れたものの問題はない。

吟ネエはロベリアを地面に下ろすと、『にゃあ』と一声かけて消えていった。

雨のせいか、生徒の喧騒や足音が小さく聞こえる。

まるで、吟ネエと俺の二人だけが世界に取り残されたみたいだ。

ありえない話だったりするんだけどな。

「吟ネエ」

「酒が欲しくなったアルか?」

吟ネエが自分の手に持っている酒瓶を顔の位置まで持ってくる。

「酒はもうちょっと年をくってからでいい。何ていうか、その」

「優柔不断はボッタクリで有り金全部取られるアル」

「そりゃ怖い世の中だ」

胸の高鳴りが止まらない。

借金取りが何度も家の扉を叩いているように激しい。

「ふう」

深呼吸を一つ吐いて、自分を沈める。

「そういえば、後二発、残ってたな」

少し前、俺と吟ネエは一つの賭けを行った。

5発耐え切れば、学校に登校してくれるというものだ。

だが、吟ネエは3発で止めてしまったのだ。

「んー?」

「吟ネエが途中で止めた二発、今頼む」

「ほほう、お前、Mの素質があるアル」

「かもしれねえな。だが、今度は言う事を聞いてもらうためにやるんじゃねえ。俺の気合を入れるためにやるんだ」

吟ネエが驚く顔をしたところは初めて見たかもしれない。

一瞬だったけどな。