ある日の夕刻時。

俺と吟ネエは近くの丘に二人座っていた。

娘の夕乃も物心がつくくらいの年齢になり、いじめは奇跡的に受けていない。

吟ネエの性格を受け継いだ部分があるのかもしれないな。

今ではすっかりオマセなお子様ってな感じである。

「何だかんだで、俺は幸せなんだろうな」

「素敵な嫁と可愛い娘に囲まれてるアルからな」

吟ネエはリンゴを齧りながら夕日を見つめている。

「かもな」

素敵な嫁というのはどうあるべきなのか。

夫と共に家庭を支えるという要素が素敵な嫁の条件なんだろう。

難点なところもあるが、俺にとっては満点といってもいい。

「少し、眠くなってきたな」

普段の仕事の疲れからだろうか、吟ネエから漂ってくるいい匂いと優しい風のおかげで眠気が襲ってくる。

「肩をかしてくれ」

「アチシの肩は高いアル」

「体を使って、返すさ」

「ん」

そう言いながらも、優しく肩を貸してくれる。

眠りに落ちていく中で、俺は考える。

今ある世界が、望んでいた生活なんだろう。

決して、二人の仲が永遠に続くわけではない。

些細な事で分かれる事になるかもしれない。

それでも、俺の気持ちは変わらない。

きっと、前世から決めていた約束なんだろう。

だから、俺はこんなにも吟ネエの事が好きなんだ。

「これからも、ずっと、一緒に、いような」

「お前が望むなら、私はお前の傍にいてやる」

例えどんな事をしても、手放したくない。

今ある生活が続くように切り盛りして行く事を強く誓う。

来世もまた、『葉桜吟』という女性と共にありたいと強く願う。

俺達なら、きっと出会えるはずだ。

何故かは解らないが、自然と信じられた。

「ありがとう」

礼と共に優しい世界の中で一時の眠りについた。




-完-