ありがとう ありがとう
何度言っても足りないよ先生
百回、千回、何度言っても
全然、足りない
手を離して今度こそ先生は
マンションのエントランスに消えて行った
先生も春が来れば
ここから去る
新しい未来が待ってるから
先生が消えた方を見つめ
立ち尽くしていると
「いい先生ねぇ」と お母さんが私の肩を抱いた
一言でも声を出したら
私は泣き出してしまうから
ただ うなずいた
「すごく素敵ね、
お母さんのタイプだわ」
なんだそれ
確かに先生はカッコいいし
お母さんと年も近いし
「絆は先生にたくさんお世話になったみたいね」
お母さんはニヤリと笑い
「あなたが女の子らしくなった理由がわかったわ」
からかうように言った
カァァァァァァァ
耳まで熱くなって
「な、なな何よぉ~」
唇とがらせ、お母さんをにらむ
「い~え。別に
いいんじゃないのぉ?」
ふふふっと笑うお母さん
「少しお父さんに似てるわよ」
うげっ!
先生がお父さんにぃ~?
「絶対ない。ぜぇったいにない」
「そうかしら?似てるわよ~」
「似てませんっ!」
良く晴れた冬の日
この街で
これが先生との本当のさよなら