先生の部屋のキッチンに並び
玉ねぎの皮を剥きながら
「あんな約束、よく覚えてたな」
先生はクスクス笑った
私は人参の皮を剥きながら
「先生との約束なら
どんなに小さなことだって
忘れません」
視線だけを横にずらし、
先生の反応を確かめる
笑顔は ふっ…と消え
代わりにとても穏やかな表情を先生は浮かべた
伏し目がちな横顔は少し寂しげにも見えた
野菜を切って、炒めて、鍋に水を入れる。
その間にした とりとめのない話は長続きせず
すぐ底をついた
意識しているわけじゃないし
先生の考えてることなんて
わからないのに
キッチンの中には1つの気配が重く横たわる
《最後》とか《別れ》とか
そんな名前の気配が



