トイレに入ってすぐ
洗面で
水をジャ―――――と流し
白い陶器の真ん中の排水に
吸い込まれて行く
水を見つめてた
次第に
目の焦点が合わなくなって
ぼやける視界の中
鼓膜に
水の流れる音だけが響いた
視線を上げて見えた
鏡に映る自分の顔は
とても冴えなくて
「………はははっ」て笑える
よくも私が
いつまでも失恋を引きずって
前に進むどころか
立ち上がれてすらない
こんな私がよくも
最愛の人を亡くした先生に
あんなに うるさく
誰かを求めろと
……………責めて
今の私なら、
先生への未練を抱えたまま
朝 起きて気がついたら
あの学祭から20年経ってました
って言われても
全然不思議に思わない
10年も 20年も 30年も
このまま なんじゃないかって
本気で思える……………
片想いで こんなになるのに
お互いに愛し合ってた人を
幸せなまま失った先生の
辛さは どれだけだったか……
『絆には わからないだろう』
「…ごめん、ごめんね、先生」
洗面台に片手をついたまま
しゃがみ込み
涙が止まらなかった
乗り越えることは容易じゃない
何も知らない子供の私が
先生を救えるわけが
なかったんだ
想いをぶつけるだけじゃなく
もっと優しく
先生に優しくすることは
どうしてできなかったんだろう



