「……………」
何も言葉が出なかった
絆の泣き顔が
また
胸を締め付ける
「……誤魔化せなかったんだ」
小さな声でやっと言うと
紗智はうつむき首を横に振った
「言い訳だよ、そんなの
絆の気持ちに答えられないなら
それでも必死に隠さなきゃ」
狭い玄関に立ち尽くし
紗智は悔しそうに
唇を噛んでから
「私はさ、子供の頃から柊ちゃんを知ってる
死んだ奥さんをいつまでも想い続ける柊ちゃんを
ロマンチックだなぁって泣かせる美談として思ってた
だけどね、絆は違うよ
違うんだよ?
柊ちゃんが笑えば、絆も笑う
柊ちゃんが泣けば、絆も泣く
柊ちゃんがひとりなら………
絆はその隣を埋めたいと思うんだよ………
柊ちゃん。
そんなことも考えないで話しちゃったの?
柊ちゃんの傷を
今、絆が全部、背負ってんだよ」
ぐすっ…と
紗智は赤くなった鼻をすすった
涙をたくさん溜めたその目は
オレよりも
よっぽど絆を思ってる
「柊ちゃんは結局、絆に何か期待してたんだよ」
「ちが…」
「だって柊ちゃん
絆に甘えたから話しちゃったんでしょ?」
甘えた?
「誤魔化せなかったって言うけど、全部話す必要はなかったじゃん
ただ、そっくりだねって笑えば済む話だったよ」



