唇をきつく噛んで
私は じっと視線を落とし
灰色のコンクリートの廊下をにらんだ
そうしないと
すぐに目の前は歪み
私の頬をしょっぱい大雨が濡らしてしまうから
修ちゃんも先生のネックレスに通されてる2つの指輪を見て
何も言えないみたいだった
先生は そっと またTシャツの中に指輪をしまい
「残念だったな、宇佐美。
オレは愛妻家なんで
隣に住む子供に変な気を起こす変態ではないんだよ」
先生の最後の言葉は
とどめの一言になり
私の恋心を粉々に砕いた
隣に住む子供
私は先生にとって
女の子でも生徒でもなく
子供なんだ
ガチャンと鍵を開けて
「じゃ、お前ら、夏休みも少しで終わるし宿題ちゃんと終わらせろよ」
先生は先生らしいことだけ言って部屋に入って
食欲なんか
すっかりなくした私の腕の中
抱きしめたバッグの底は
まだ温かく
「………キッズ……
オレたちも部屋に入ろう」
修ちゃんがポンと私の肩に手を置いた瞬間
それがスイッチみたいに
ぼたぼたぼたぼた………
私の目からは大粒の雫が大量に
頬を濡らし、口に入り込み
あごを伝って落ちて
温かいバッグに しみを作った



