お兄ちゃんの気持ち

いつもお店で見せている元気な椎名さんとは違った、おっとりとした声にドキドキしてしまう。

鞄に見つけた傘を取り出して、返事をする前に俺の足はお店へと向かっていた。

すぐに向かうことを伝えて電話を切ったけど、はやる気持ちとは裏腹に足はどんどん重くなっていくような気がした。

ふと立ち止まり、雨の落ちてくる黒い空を見上げる。

俺は、これからどうしたいんだろう?と。

このまま、気がついた自分の気持ちに突っ走ってもいいのか?

ずっと気になっていたのは事実だけど、はっきりと自分の気持ちを認めたのはつい数時間前のこと。

今、こうして会いに行けばいつも会うお店でも、二人っきりで会うことになるんだ。

何度かお店で顔を合わせているけど、お客としてではなく、それも二人きりで会うなんて初めてのこと。

ドキドキする心臓をごまかすように足を動かして店の前までやってきた。

入口のガラス扉はブラインドが下げられ、Closeの札が下がっている。

一瞬とまどったけど扉に手をかけると鍵はしまっていなくて、カランと音を立てて難なく空けることが出来た。

「あ、いらっしゃい」