お兄ちゃんの気持ち

予想通り、とにかく忙しくて。

気がつくと定時になっていて、仕事が終わった若い子たちが挨拶をして帰って行った。

いつも遅くまで残っているので、皆が先に帰るのは気にならないんだけど。

いつもは胸ポケットに入れたままになっている携帯電話が、どうしても気になって仕事に集中できない。

「…」

鳴ってもいない携帯電話を取り出して、机の上に置いてみた。

電話…掛かってくるだろうか。

俺の電話番号とアドレスは椎名さんの携帯電話に登録したけど、彼女の連絡先を俺は知らない。

自分で思っていた以上に期待していることに驚きながらも、彼女に対する自分の気持ちを確認することが出来た。

「課長、お先に失礼します」

「ああ、お疲れ様。気を付けて」

ぼーっとしていたところこ声をかけられて少し驚いたけど、辺りを見渡すと残っているのは俺だけ。

よくあることだけど、少し寂しさもあったりして。

まあ、一人のほうが質問などで邪魔されることもないので仕事ははかどるんだけど。

集中して残りを仕上げ、今日中に終わらせたいものが片付いたのは21時を回ったところだった。

明日の作業を確認してから会社を出ると、小雨が降っていて。

「あー、雨かぁ」

いつも携帯している折り畳み傘を鞄から取り出した時に、携帯電話が鳴った。