いきなり右側に重みを感じた


目をやると初音がぎゅっと服の裾を握っていた


女のそういうとこ可愛いんだよな



「こら初音ちゃん!
 ご飯の時間だから戻りなさいっ」


時計を見るともう昼食の時間


『行くぞ』と手を差し出すと初音はちゃんと握ってくれた



「音緒くんっ
 話したいことがあるんだけど…残って?」


「すみません
 姫との先約がありますので」


にこっと冗談っぽく言うと,ゆうさんも笑ってヒラヒラと手をふってくれた


病室に戻ると昼食と共に師長さんからの置き手紙があった


内容は勿論規則を守るようにとの注意だった



「ゆんちゃんの事い−の?」


「いいの
 早く飯食えよ
 土産やんね−ぞ」


すると初音は黙々とご飯を食べていた




あの時…呼び止められた時,俺は話を聞くべきだった


でも


ゆうさんが『残って』と言った時の初音の表情…


独りぼっちになるかのような表情を見て


俺はあったばかりの彼女ではなく初音を選んだんだ


俺にとってそれは当たり前のことだった


けれど…そのせいで


歯車がずれる音を俺は聞き逃した