「私は…別に、女になんてなろうとか思ってないし」

「なら、どうして?」

有栖川が、寂しそうな瞳で私の頬を触った

私は起き上がると、じっと有栖川の顔を見た

「ただ、頭にきたからよ
冴子は、私の全てを奪ったわ
バイトも、ボロアパートも……華道界から追放するだけなら我慢する…

…そりゃ、嫌だけど…でも一人で、やっていくには滝沢の名は重すぎたから
いつかは…あの家を出ていく日が来てたと思う

でも、私の新しい生活すら奪うのは、どうかと思うでしょ?」

「…それって僕のせい…なのかな?」

有栖川が私の隣に座った

ソファに並んで座るが、人一人分の距離はあいている

「心当たりがあるの?」

「僕、愛子さんの生けた花が好きだから…その話ばっかりしてる」

「は?」

「僕の部屋は、愛子さんの花の写真でいっぱいなんだ」

「へ?」

「花の特徴を最大限に活かして、大胆に生けられるなんて…愛子さんほどの天才じゃなきゃできません
だから、僕は…少しでも愛子さんに近づけるように…」

私は有栖川の口の前に手を出した

「もう…いい
わかったから」