「愛子さん…」

有栖川の手が私の背中に触れたとたん、和服の袖口から携帯の着信が聞こえてきた

「…え? あ、ごめん」

有栖川が慌てて携帯を手に取ると、耳に当てた

「もしもし?」

『聖一郎さんっ!』

「あ…飯島さん?」

携帯から冴子の声が聞こえた

外では『様』で…電話のときは『さん』なんだ

仕事とプライベートをわけてるのかしら?

『どこに出かけていらっしゃるのですか?』

「あ…散歩です」

『随分と長いお散歩ですねえ
お部屋で、やることがおありなんですよね?
お車でお出かけになってから、何時間が過ぎているとお思いなんです?』

え?

内緒で出かけているの?

どうして?

「あ、バレてました?
明日までに戻ればいいですよね?」

有栖川が、首をぽりぽりと指先で掻きながら話をする

『まあ…仕事に支障がなければ…ってどこに行ってるんです?』

「言わないといけませんか?」

『仕事に支障があっては困るんです
聖一郎さんは言わば、商品なんです
イメージがあるんです
清廉潔白で、清く正しい立ち振る舞いをしていただかないと』

「あーはいはい」

有栖川が困った顔をしている