甘い紅茶と苦い珈琲


幼い頃から、母さんは病弱だった。

あたしが小学校にあがる頃には、入院をしなければいけないほどで、気付けば母さんはいくつかの病気を併合させていた。
最後は眠るようには死ねず、たくさんの冷や汗をかきながら死んでいった。



父はその頃、自分に冷たくなってゆく母に堪えられず、他の女の人と恋をしていた。
小さいながらに、それは理解していたし、きっと母さんも分かっていた。

薬の副作用で醜くなっていく自分が、それを愛する人に見られることが、恐怖でしかたなかった。




「残りわずかな命の自分といる辛さより、これから先の幸福を。母さんから父さんへの最後の贈り物。だから、あんまり父さんを攻めないでね。そうしむけたのは、母さんだから。


あたしにそう残した、翌日だった。



母さんの死に、父さんは涙を流したし、あたしを抱きしめて「ありがとう」と震える声で囁いた。



本当は罵ってやるつもりだった。
罵声を飛ばしてやりたかった。


でも、泣かないあたしの代わりのように涙を流す父さんを、あたしは抱きしめることくらいしかできなかった。