屋上庭園にいると、誰かの足とがした。


「誰…?」


返事は無く、ただ足音だけがしていた。

この足音は、あの人だろう、と思う私がいる。


もしもあの人だったら…なんでここに? と考える。


「…何か用?」


姿を見せない人物に、声をかける。


そして、姿を見せたその人は、私の予想通り。


「ねぇ、返事をして…お兄ちゃん。」

「…懐かしいな、この場所。」

「質問に答えて。何か用…?」


少しキツイ言い方かもしれない。


「…悪い、詩乃。」

「え…?」


予想外な言葉に、拍子抜けする私。

あの男と別れろ、と言われると思っていたからだ。


「何…言っているの? お兄ちゃん…。」

「…詩乃は、俺が嫌いか…?」


私がお兄ちゃんを嫌う…?


「…嫌うわけないじゃない…。
だって…お兄ちゃんは…。」


唯一私に優しくしてくれる、家族だもの。

私は、今まで何を見てきたのだろう。
ずっと、お兄ちゃんは私の幸せを壊して来た、としか考えていなかった。


でも、今この言葉を聞いて、私の考えは間違っていた、と分かった…気がした。


「…ゴメンな、詩乃…。俺…今まで、お前に酷い事してきたんじゃないかと思って…。」

「…なんで…今まで…あんな事したの…?」

「…俺は、お前を…守りたかった。」


守り…たか…った…。