そして、遂に桜がパリへ飛び立つ前夜の出来事だった。

「いよいよ、明日だね」

「うん」

「穂稀には自分の気持ち伝えたの?」

「ううん、言ってない」

「どうして!あいつ鈍いからさ!がつんと言ってやらないと……」

「……桃。私に隠していることない?」

その言葉を聞いてヒヤリとした。

「そっそんなことあるわけないじゃない!!」

「じゃあ、穂稀に告白されたって言うのは……本当?」

「……どうしてそれを?」

「やっぱり……。たまたま二人の様子を見ていたっていうクラスの子が教えてくれた」

「でも、断ったしさ。付き合ってないんだから!桜はそんなこと気にせずに」

「なぜ断ったの?」

「なぜ……って桜が彼の好きだってこと知ってたし、そんな裏切るような真似できるわけないじゃない!!」


……パシッ!


「ばっかじゃないの!!私の気持ちなんて関係ないでしょ!桃はどうなの?あんただって彼のこと好きな癖に!!」

「……私はもうあんたの泣く姿みたくないのよ」

「桃……」

「それに私にとって穂稀は幼なじみ、それだけよ」

「本当にそれでいいの?」

「うん」

「そっか、そっか。桃がそこまで言うのならもう何も言わないわ」

……絵?
彼女はそう言うと一枚の絵を差し出した。
まだイーゼルの上に乗ったままの様を見るとさっき描き上げたものなのであろう。

「これは?」

「受け取って。桃のために精一杯描いた絵なんだ」

そこには白いキャンパスに描かれた『私』が笑っていた。


「ありがとう」