「全ての欲を捨てることが出来たなら―汝の魂と来世の魂を入れ替え、救おう。しかし汝が欲を捨て切れぬならば、力を与えることはしない。」

圧倒的な威圧感。
悪魔とも神とも判断できない。

『恐ろしい。』

本能が勝手に感じた。


「堪蔵さん?」

呼ばれて目を覚ますと香がいた。

「お香さん・・・。」
「ご、ごめんなさい。随分うなされていたから・・・。」
「いえ。どうしてここに?」
「どうしても・・・会いたくなって。」

堪蔵は胸が苦しくなった。
香を抱き締めたかった。

しかし、夢の言葉が頭を過る。

『全ての欲を捨てる・・・。』

堪蔵は香の愛を欲する心を噛み殺した。

「顔、洗ってきますね。」

香をおいて井戸へ向かった。


冬も終わりだが、まだ空気が冷たい。
洗って濡れた顔が痛かった。