「八重ちゃん。」

堪蔵は昨日の少女に手紙を渡した。
少女は笑顔で、香に渡すと約束してくれた。

手紙を書いただけでも、堪蔵の心は安らぎ、楽になった。


その夜―

「堪蔵さん・・・。」

声に起こされ、戸を開けると香が立っていた。

「お香さん・・・。」
「・・・来てしまいました。」
「ど、どうしたんです?」
「あなたからの手紙が嬉しくて。」
「え?」
「私のこと、大切に思ってくれてるのだと思って。」

恥ずかしそうに言う香がいとおしかった。
抱き締めたかったが、僧としての心が許さなかった。

「上がってください。大した物は出せませんが。」

香は寺の中に上がってきた。
堪蔵は茶を沸かした。
沈黙の二人。

「お香さん。」
「はい?」
「本当にお嫁に行くつもりですか?」
「・・・はい。」

香は肯定した。

「寂しくなります。」

それくらいの言葉しか出なかった。

「・・・好きな人がいるのです。」
「え?」
「頑固な人で、妻は取らないといっています。だから遠くへお嫁にいくことにしたんです。」
「・・・。」
「その人は私の気持ちに気付いている筈なのに。」