次の日、香は流音寺に来なかった。
子供たちはいつものように走り回っている。

いつものように座って子供を見ている堪蔵の前に男の子がやってきた。

「かんぞー・・・なしてお香姉ちゃんを嫁さ貰わねんだ!」

少年の目は涙ぐんでいた。

「え?」
「お香姉ちゃんは堪蔵のことが好きなのに何も言えねんだ。それに堪蔵が貰ってくんねーとお香姉ちゃんは遠くの醤油屋に嫁に行ってもう帰ってこねえんだ!」

堪蔵は心に何かが突き刺さるような気がして、何も言えなかった。
堪蔵の様子を見た少年より年上の女の子が少年を連れていった。

随分気が利くな、と思った。


その夜―

「見えた。」

堪蔵には見えた。
妻をとらないと断言しておきながら香に思いを寄せつつある自分。
修行中の身なのに香の愛を欲している自分。

「欲、残ってたな。」

堪蔵はため息を吐き、寝床に入った。

しかし、寝れずに香への手紙をいつのまにか書いていた。