母は何も喋らなかった。 時折、鼻唄で聞こえるあの子守唄以外は。 おそらく、母の頭の中からは全てが消えたのだろう。 子供を捨てたと言う苦渋の日々も、一人生きて来た辛さも。 俺の、《母さん》と言う言葉で救われたのかもしれない。