「待って。待って、愛人!」


私は立ち上がってとっさに、彼の名前を叫んでいた。


私の声に、彼が振り向く。


「えっ?」


振り向いた彼は、さっきと違うオーラを放っていた。


怖い。


そう思った。


「悪いけど、俺の名前呼ばないでくれる?」


「えっ?」


彼の目は、何かを突き刺せるくらい鋭くて。


とても冷たかった。


「俺、自分の名前死ぬほど嫌いだから」


「どうして?」


「理由なんてどうでもいいだろ」


それだけ言うと、彼は本当にリビングから姿を消した。