きっと一柳さんの次に、愛人が信頼してる人だと思う。


ほんとは、一番信頼してる人が両親じゃないっていうのが少し悲しい。


おば様も愛人の心に近づこうと頑張ってるみたいだけど、あまり上手くいってない。


親に対して閉ざされた愛人の心は、まだ開かないみたい。


それでも私は、いつか分かり合えるって信じてるから。


トントンと音を立てて、笠原先生が病室のドアを叩く。


「はい」


中から愛人の声が聞こえて、先生はドアを開けた。


「また本読んでるのかい?」


「それしかやることないし」


パタンと文庫本を閉じて、愛人が少し不機嫌そうにそう言った。


「マー君」


笠原先生の後ろから手を振ると、少しだけ愛人が笑顔になる。


「胸の音聞かせてもらうな」


愛人の診察が終わるのを、病室の隅で静かに待つ。