「俺のこと聞いたの？」


不意に愛人が口を開く。


「うん」


「そっ」


また訪れる沈黙。


話しかけるべきか愛人から話してくれるのを待った方がいいのか考えて愛人の手元の本を見つめていると、その本が急にパタンと閉じられた。


愛人の目が、真っ直ぐ私を見つめる。


「なんでここに来たの？」


「へっ？」


「俺のこと聞いたんだよね？なんで来たの？」


「なんでって・・・マー君元気になったかなとか、いろいろ気になって」


「別に気にする必要ないでしょ？どうせ俺、死ぬんだから」


このとき初めて、愛人の口から死って言葉を聞いたかもしれない。


「マー君・・・」


その言葉に、涙腺が緩む。