「入っていいかな?」


「好きにすれば」


また本に目を落とした愛人を気にしながら、病室のドアを閉めた。


ゆっくりとベットに近づく。


「具合、よくなった?」


「よかったらこんなとこ居ないと思わない?」


「そう、だよね。今日は一柳さんいないの?」


「ああ」


顔色一つ変えないで言葉を発する愛人に負けそうになりながらも、会話を続けようと試みる。


「あのね、この前マー君が選んでくれたスカート」


軽く一周回ってみると、シフォンケーキみたいに柔らかなスカートの生地がふわふわ揺れた。


「似合うかな?」


「ああ」


私の方を見向きもしないで答えた愛人に、思わずため息が漏れる。


なんか、美結って名前呼んでくれたのが嘘みたい。