「マー君、濡れてる」


鞄からハンドタオルを出しそれが濡れていないことを確認すると、愛人の少し長い髪から滴り顔についた水滴をそっと拭いていく。


「美結」


愛人の顔を拭いていた手を、急に掴まれた。


「マー君?」


「今日は、ありがとう」


「えっ?」


「楽しかった」


そう言った愛人の顔は今までで一番優しい笑顔をしていて、なぜだか私の鼻の奥をツーンとさせた。


「また、一緒に出掛けよう?」


愛人の笑顔があまりに儚くて、愛人が消えてしましそうで、私は急いでその言葉を言った。


「または、もうないかもしれない」


そっと、愛人の顔にあった私の手を下される。


「マー君どうしたの?急にヘンだよ」


ふと切なげに笑った愛人の顔が、急に苦痛に歪んだ。