美味なる茶を持ち、主客と共に楽しみ、心を通い合わせる。
それが茶の道というものなのだよ。


亡くなられた曾お爺様が言っていた言葉。
耳に蛸ができるほど言い聞かされた言葉。

私は茶の道を通し、人々に喜びを伝えられたらいいと思っていた。

だって曾お爺様は毎日楽しそうで、周りにいる人々もいつも笑顔だったから。
私もあんな風に生きられたらと願っていた。


茶道家、西園寺宗輔のひ孫に生まれた私には、この世界でしか生きる術は無かった。
だからこそ茶の道で大成したいと思った。





「紀要香さん、今度の茶会で皆様にお披露目をしようと思っていますから。
心の準備をしておきなさいね。」


まだ心も体も幼かった頃、私はお婆様にそう言われた。

その頃はお披露目の意味も今一理解はしていなかかったから、大して驚きもせずに頷いたのを覚えている。
けれどいざ大勢の前で紹介をされた時、緊張して何も言えなかった。

たくさんの目が私を見ていたのが怖かった。



その頃に出会ったのが懸高奨造、その人だった。

懸高おじ様は私にとても優しくて、幼い私はすぐに懐いた。
その頃の私にとっては茶道界の人は皆怖かったから。

私のことを何か別の生き物を見るような目で見ている。
そんな風に思えて仕方なかった。


けれど懸高おじ様は私を娘のように可愛がってくれたから、とても心が和んだ。

一緒に有名なお寺へ連れて行ってくれたり、京都で茶会が開かれれば案内もしてくれた。
わからないことは教えてくれたし、困ったときは助けてもらった。

おじ様はまるでもう一人のお父様のようだった。