「鍵、借りてきたよ。」


その声を聞いた瞬間に、涙が出そうになりました。

大げさに言っているわけではありません。
本当に泣きそうになってしまったのです。


「大丈夫?すぐに横になれるからもう少し我慢してね。」

「・・・って・・・ないかと・・・。」

「えっ?ごめん、よく聞き取れない。」

「帰って来ないかと・・・。」


すると貴方は優しく笑って言いました。


「大袈裟だな。ほら、立てる?」


私は頷いてよろよろと立ち上がりました。

しかし貴方はそんな私を見かねたのか、抱き上げてくれたのです。

私は驚きと緊張で声も出ませんでした。

いわゆる、お姫様抱っこ・・・。
こんなこと・・・生まれて初めてされました・・・。


「この方が早いだろ?」


貴方は私の顔を覗き込んで言います。

それはまるで私に恋心を抱かせるために、わざとやっているように思えました。

けれど貴方はそんなことを気にも留めず、ゆっくりと医務室に向かって歩き出します。




 医務室の前で、貴方は私を下ろし、鍵を開けました。


「放課後まで使ってていいって言ってたから、ゆっくり休むといいよ。」


私は中へと入り、倒れこむようにベッドに横になりました。

貴方はベッドを囲むように取り付けられたカーテンを閉めようとしています。


「あの、本当にありがとうございます。何から何まで・・・。」


カーテンを閉め切る前にそう言いました。

言っておかなければ、きっと貴方はすぐに行ってしまうと思ったから・・・。


「構わないよ。じゃあ、おやすみ。」


貴方はまた優しく笑ってカーテンを締め切り、医務室を後にしました。


貴方の足音が廊下に響いています。

それがなんだかとても寂しくて、でも子守唄のようで。

私はゆっくりと目を閉じました。