彼の名前は虎次郎。通称トラ。
ふざけたような名前ですが、これは正真正銘の本名です。

彼とは付き合いが長く、私のよき理解者とでも言いましょうか。

けれどある日を境に彼とは関係を断ち切りました。

連絡を取ることも許さず、会うことは勿論、話すことすら拒否し続けました。



それはトラに限らず他の友人も同じです。
私は一切関与しない、そう言って皆の前から姿を消すことを決めたのです。

理由は何であれ過去に友と呼んだ人間とはもう会わない。
自分の中で固く誓ったのです。




「来てはいけないと思ったんです。」


トラは言い訳をするように私に言いました。

イオは静かな目で私たちを見ています。


「何度も自分を戒めました。けれど、もう無理なんです。
俺一人の手ではどうすることもできません。」


切羽詰ったような顔をするトラ。
その顔でどれだけ悩んでここに来たのかがわかります。


「それで、お話の内容は?」


するとトラは顔を上げました。過去に何度も見た鋭い眼差し。

いつものトラが、そこにはいました。


「このままでは、壊れていくのは時間の問題です。」


私は目を瞑り、深いため息をつきました。

その言葉が何を表しているのかすぐにわかりました。
私がいなくなることで乱れが生じることは予測できる事態でした。

しかし、あまりにも早い。予測していたよりもずっと・・・。


「いつからそう感じるように?」

「姐さんがいなくなってすぐです。
まず最初に予想通り内部反発が起こりました。

それが収まった頃に、少しずつ歯車が狂ってきました。
最近ではそれが目に付くようにさえなってきたんです。

しかも今は変な薬が出回っていて・・・。」

「本当ですか!?内部に出回るのを阻止して、流出元を探らないと・・・。」

「それは今探ってるところです。けれど全くわからなくて。
敵も馬鹿じゃありません。足があらわれないように注意してるんでしょう。
それから、姐さんに伝えなければいけないことがあって。」

「何です?」



トラはじっと私を見つめ、口を開きました。


「キキのことです。」