私はシーナの前では笑顔を作り続けました。

笑顔で旅立って欲しかったから。
気持ちよくパリに行って欲しかったから。


けれど私の中で何かが膨れ上がるのがわかります。

何かこう、悶々とした物が心の中で成長していくのです。
それはまるで太陽を覆い隠す雨雲のよう。
真っ黒く濁っていて、消えることは無いのです。



シーナは来年の春先にフランスへ引っ越す予定で、それまでに何ができるのか考えることで精一杯でした。


最後の思い出。


シーナが二度と帰ってこないという事は無いのですが、もういつものように四人で居ることはできないのです。


きっと来年になればイオは本格的に茶道を極めるでしょうし、サボだって医大に行くために必死に勉学に努める筈。



そして私は・・・ひとりぼっちになってしまうのでしょうか。



私にはやりたいことも、将来の夢もこれと言ってありません。
何かに必死になれる気も致しませんし、抜きん出た才能も無ければ特技も無し。

私はひとりぼっちです。

独りだけ取り残されてしまうのでしょうか。


そんなことを思うとやりきれなくなります。
皆やりたいことや目標があるというのに、私には何もありません。
何も見つかりません。



夜はそんなことばかり考えてしまい、涙が出そうになることが何度もありました。

その度私は自分を叱咤します。



“何を今さら。自業自得ではありませんか。”



悲しみに包まれたような、そんな毎日。

ずっとこのままでいられたらいいのにと、何度も思いました。



シーナもサボもイオも高校二年生のままで、時が止まってしまえばいいと。



けれどそんなことは出来るはずも無く。

私は悲しみの繭の中で溢れ出そうな涙を抑えるのでした。