猫とうさぎとアリスと女王

 「あ、そうだ。」


サボは口をもぐもぐと動かしながら呟きました。


「シーナ、あのこともう話したのか?」


シーナの表情が少し変わります。


「あのこと?」


私がシーナの顔を見ると、続いてイオも口を開きました。


「何の話?」


シーナは少し俯きました。
かと思えばすぐに顔を上げ、柔らかく微笑んでこう言ったのです。


「この前のコンクールあったでしょ?イオにモデルになってもらったやつ。」


サボはシーナの話などお構い無しにケーキを貪っています。


「あの結果、散々だったんだ。
入賞なんて夢のまた夢。佳作に入っただけだった。

それで凄く落ち込んで、色々な人の作品見てもっと勉強しなくちゃって思ったんだ。

それで思い切って母さんに言ってみたんだ。
美大に行きたいって。もっと絵の勉強がしたいんだって。

そうしたら意外にも母さんが首を縦に振ってくれたんだ。
なんか、タケが少し説得してくれたお陰もあったみたいでさ。
“やりたいことがあったらとことんやってみなさい。でも向いていないってわからなかったら有無を言わさずデザイナーにさせるから!”って。」


「よかったじゃない!ねえ、マコ!」


自分のことのようにイオは喜び、私の共感を得ようと問いかけました。
私は素直に頷きます。

シーナが予てから望んでいたことをできるというのは、私にとっても嬉しいことです。


「それで僕、ずっと行きたかった学校があってさ。
その学校のこと話したら絶対反対されると思ったんだ。

でもいいよって言ってくれたんだ。」


その時、私の中で嫌な予感がしました。

こんなにも嬉しいことなのに、喜ばしいことなのに。
次第に自分の表情が曇るのがわかります。


そしてシーナは、最後にこう言ったのです。





「僕、パリに行くことになったんだ。」