猫とうさぎとアリスと女王

　私はサボのことはイオに任せ、シーナの後を追いました。

勢いよく閉めたドアの音が、怒鳴った声が、今も耳に残っています。
まるで残響のように。

鼓膜の奥の奥まで響いています。


私が辺りを見回してシーナを探していると、外のベンチに座っているのをみつけました。
寂しそうな、辛そうな顔をしているようです。

私はそっと近づき、シーナの横に腰を下ろしました。
風はほんの少し冷たく、私たちの頬に刺さりました。


「僕らしくなかったね。」


疑問を投げかけるような表情をすれば、シーナはそれを読み取ってくださいました。


「怒鳴ったりして。」


シーナは小さく呟いて自分の拳を見つめました。


「サボのこと殴ったのなんて初めてだよ。
人を殴ったこと自体、初めてだったんだけどさ。」


緩く笑うシーナは、とても苦しそうでした。

サボを殴ったことを後悔しているのでしょうか？
それとも自分の言ったことに対して罪悪感を抱いているのでしょうか？

もしかすると両方かもしれません。


けれど私にはそれを口にする勇気はありませんでした。


「ご免、マコ。僕帰るね。」


私は戸惑うことしかできませんでした。


シーナになんと声をかけていいのかわかりません。

自分が酷くちっぽけに思えます。
自分が何をするべきなのか、何をしたいのか、わからないのです。

もしかしたらサボは、ずっとこのような感情を抱いていたのかもしれません。


「シーナ、余り気になさらないでください。
サボを思っていればあのようなことを言ってしまうのは当然ですわ。」


するとシーナはふと笑みをこぼしました。


「ありがとう、マコ。」


そう言ってシーナは私に背を向けました。
私はそれを見つめることしかできませんでした。