母さんが入院したきりになったのは、俺が丁度中学に上がったころだった。

“清の晴れ舞台なのだから、入学式には行く”
そううわ言のように何度も言っていたけれど、勿論そんなことはできる訳も無く。
親父が止める前に俺が止めた。


「母さん、気持ちだけで嬉しいから。」


そう言うと母さんは残念そうにしていた。


「清がこんなに大きくなったんですよって、いろんな人に自慢したかったのに。
中等部の制服着た清のこと見たら、女の子が寄ってこないか心配。
もうお母さんだけの清じゃなくなっちゃうのね。」


ベッドの上で虚ろに呟く母さんを見て、なんだか悲しくなった。


「俺は母さんの子だよ。何年経っても、結婚しても、母さんの子だ。」


そう言うと母さんは涙を流した。
泣いてる時も母さんは笑ってた。

別に死を間近にしている人間に気を遣ったわけでは無く、素直に心に浮かんだ言葉を言っただけだった。
母さんが悲しくなるようなこと言うから。


俺は母さんの子どもだ。

何十年経っても、何百年経っても、世間が俺のこと忘れちまうようになっても。
女が出来ても、結婚しても。

俺が死んでも、母さんが死んでも。


俺は永遠に母さんの子どもであることを誇りに思う。



でもそこまで言うとクサくなりそうだから言わなかった。


男は多くを語るもんじゃない。

背中で語れるようにならなきゃいけねえ。


いつかの、誰かの言葉だった。