俺が物心付いた時には、既に母さんは入退院を繰り返すような体になっていた。
小さい時は家にいて家事なんかもしてたし、一緒に出かけたりもしたけど、小学校高学年くらいから病院に何度も行くようになってた。

俺は小さい頃は親父も好きだったし、病院も好きだった。
親父が医者であることに誇りをもっていたし、何より自分の家が大病院を運営しているってことが嬉しかった。


だから何度も病院に足を運んでは聴診器をかっぱらって、ふざけてお医者さんごっこなんてやったっけ。

母さんの胸に聴診器を当てて、


「んー、じゅんちょうですね。これならあしたにはたーいんできるでしょう。」


なんて親父の真似してみたり。

母さんはそれを見て微笑んでた。


「小さなお医者さん、それは本当?とっても嬉しいわ。」


って俺の“ごっこ遊び”に付き合ってくれた。

小さなお医者さんって言われるのはなんだか嫌だったけど、“医者”と呼ばれるのは嬉しかった。
母さんの病気を治してやるのは俺なんだって思ってた。


「清は大きくなったら立派なお医者さんになれるわね。母さん安心した。」


そう言って頭を撫でた。



病気だったって言うのに、俺は母さんが苦しんでるとこなんて一度も見たことが無い。

俺の知ってる母さんはいつでも柔らかく微笑んでた。
色が白くて、飛びぬけて美人って訳でもなくて、でもすごく綺麗だった。


親父はそんな母さんの見舞いにも来ず、自分の仕事をこなすだけだった。

腕利きの外科医なんだろ?
有名な医者なんだろ?
難しい手術もやったことあんだろ?

さっさと母さんの手術して治してやってくれよ・・・。


親父が何もしないことに、俺は苛立っていた。