「姉さん、来てたんだ。」


部屋に戻ってきたサボがぽつりと呟きました。
驚きと寂しさの中間のような表情と声のトーン。

サボはお姉様のことをどう思っているのでしょうか。
もう今は恋愛対象として見ていないのでしょうか。

他人事ながら、そんなことが気にかかりました。


「サボのお姉様、Chocolatのヴォーカルの方だったのですね。
私あんなに綺麗な方を見たのは初めてです。やっぱりオーラが違うのかしら?」

「美人だけどあの顔見る度に腹立つ。親父と瓜二つだからよ。」


となるとサボのお父様は相当な美形と思われます。

しかしそんなお姉様に恋をしてしまったとなると話は別。
さぞ辛い恋でしょうに・・・。


「優しかったですし、ライブのチケットまでいただいてしまって。本当に素敵な方ですわね。」


サボは何も言わず、ぼんやりと考え事をしているようでした。


サボの頭の中に浮かんだ言葉、浮かんだこと、お母様のこと、お父様のこと、お姉様のこと、将来のこと。
私にそれを理解するのは至難の技です。

サボは自分のことを多く語りません。
なのでサボが本当にお医者様になりたいのかもわかりません。


でも何か力になってあげたいと思うのです。


けれどその思いばかりが空回りしているようで、私はもどかしくて仕方がありませんでした。

サボには必要以上に助けていただきました。(それと同じ分、迷惑もかけられましたが。)


ねえ、サボ。貴方は何を思っているのですか?



何を思ってそんなに寂しそうな瞳をしているのですか?





私に、話してください。


けれどそんなことを口に出す勇気も無く、私はただサボを見つめていました。