「それよりあなた方、何か御用があってここに来たのではないですか?」


イオが二人にそう尋ねると、ピアスだらけの彼が答えました。


「山際に用事があっただけだから。まだ職員室にいる?」

「ええ、多分。けれど早めに行かないと帰られてしまうかも。
急いだ方がいいと思います。」

「わかった。ありがとう。ほら、シーナ!いつまでも笑ってないで行くぞ!」

「わかった、わかった。じゃあ、ありがとう。」


そう言って王子様は私に背を向けます。

ああ、もう行ってしまう。


「あの!」


私は王子様を呼び止めました。

もう貴方を探すのは厭。
貴方の名前を聞き出せなかったことを後悔するのも厭。

もう貴方に遭えなくなるのは、厭。


「お名前を教えていただけますか?」


王子様は微笑んで私に言いました。


「僕はシーナ、あいつがサボ。君は?」

「私はマコと申します。彼女はイオ。」


イオは軽く会釈をします。


「よろしく、マコ。」


そう言った王子様の笑顔は、今まで見た笑顔の中で一番柔らかい笑顔でした。