猫とうさぎとアリスと女王

 マンションの前に行くと、そこにはシーナがぽつんと一人で立っていました。
泣いている?いえ、泣いてはいないようです。
けれど俯いていてあまりよく表情が見えません。


「シーナ?」


そう声をかけると、シーナは私の横を素通りしていきます。

私は急いでシーナの後を追いかけました。
けれど足の長さが明らかに違うので、私は小走りをしながら後を追いました。


「ちょっと、シーナ?聞いてます?」


シーナは返事もせず、振り返りもしません。
ただ真っ直ぐに歩みを進めるばかり。

いつの間にか周りの景色は住宅街ではなくなっていました。

川が流れ、土手が広がり、辺りには誰もいないようなそんな場所。
そこを私とシーナは歩いていました。


「岳志さんとは話はできました?聞きたいことは聞けましたか?」


するとシーナはいきなり振り返って私の腕をつかみました。


「マコ・・・走って!」

「えっ!?ちょっと、待ってください!シーナ!」


するとシーナは私の手を引いて一気に土手を下ります。
それもものすごいスピードで。


「シーナ、無理です!こんな急な坂下れるわけが・・・きゃあっ!!!」


その瞬間私の足がもつれて見事に土手の真ん中で転んでしまいました。
シーナはそんな私をかばうようにして抱きしめます。

しかし転んだのは土手の中腹ですから、私とシーナはまるで芋虫のようにごろごろと転がり、土手の一番下まで転げ落ちました。


「怪我は無い?」


草の上に寝転んだまま、シーナは私にそう問いかけました。


「平気です。もう、何故いきなり走り出したりするのですか?お洋服が草だらけです。」


私は座ったままスカートの草を払いました。

ボンネットが曲がってしまったのでそれを直していると、シーナは起き上がりぽつりと話し出しました。


「ちゃんと話してきたよ。」


そよ風が私とシーナを包み込みます。

草の匂いが、体中からするようでした。