猫とうさぎとアリスと女王

 その日、家に帰ったら母が僕を待ち構えていた。


「あら、髪切ったの?いいじゃない。」

「岳志さんに切られた。服、ちゃんと見立ててもらったから。」

「迷惑かけて無いでしょうね?それにしてもいいわね、その髪型。やっぱり日比谷君に頼んでよかったわ。」


僕はその言葉を右から左へ流し、自分の部屋へと向かった。



 パーティー当日、出発する時間より前に岳志さんが家に来た。


「お早う。朝早くに悪いね。」

「母さんならもう会場にいますよ。」

「用があるのは飛絽彦君だから。」


そう言って岳志さんは僕を部屋へと連れ込み、着替えるように促す。
僕は訳も分からずに言われたとおりにした。

ブラウンの光沢のあるシャツに、黒い細身のパンツ。それにブーツを合わせる。
これが岳志さんの選んでくれた服だった。


「やっぱりいいね。似合ってるよ。少し髪いじろうか。」


そう言って岳志さんは僕を椅子に座らせた。

手にワックスをつけて僕の髪をいじる。
部屋には鏡が無いから、今自分の髪がどうなっているかなんてわからなかった。


「よし!じゃあ俺の持ってきたジャケット着て。
この前着たやつは少し丈が短かったから、もう少し大きいサイズの持ってきたから。」


確かに前に着たジャケットは丈が短かったし、その上肩も少し窮屈だった。

ロング丈のコートのようなジャケット。
僕は言われるままにそれを羽織った。


「やっぱり俺が見立てただけあるな。モデルみたいだよ。」

「普通、そういうこと自分で言わないですよ。」


そう言うと岳志さんは笑った。

その笑顔につられて、僕もなんだか可笑しくて笑ってしまった。