猫とうさぎとアリスと女王

 「はい終わり。風呂入って細かい毛、流しておいで。」


僕は言われたままシャワーを借りることにした。

その時に鏡を見て、驚いた。
こんなに綺麗に切れるものなのかと思った。


シャワーを浴びて出てくるとすぐにドライヤーで髪を乾かされた。
なんだかお兄さんができたみたいで嬉しくなった。


「顔立ちいいんだから、見せないと損だよ。彼女とかいるの?」

「いる訳無いじゃないですか。僕まだ中学二年生ですよ?」

「そのくらいならいて当然だろ?」

「日比谷さんはどうなんですか?」

「岳志でいいよ。」

「岳志さんは彼女とかいないんですか?」

「俺が仕事にばっかり愛を注いでるから、みんな愛想つかしてどっか行っちまうんだ。」


僕が笑うと、岳志さんも笑った。


なんだか距離が縮まった気がした。
たぶん、僕がいけなかったんだと思う。

自分が距離を作るような真似をしていたから、相手もそうなるんだろう。


その後お店に戻ってまた服を何着も着た。


「もうやっつけ仕事はやめてくれよ。」


冗談っぽく言う岳志さんは少し意地悪だと思った。

服を着せている岳志さんは凄く真剣で、こんな人に“媚を売ってる”だなんて言ったことを後悔した。

純粋に洋服が、このブランドが好きで、やっていることなのに。
僕に話し掛けてきたのも、ただ仲良くなりたかっただけだったからだと気付いた。


やっぱり僕はまだ子どもで、岳志さんは大人なんだなと実感した。