猫とうさぎとアリスと女王

 「入りなよ。遠慮しなくていいから。」


連れてこられたのは彼の自宅だった。

なんで自宅?よくわからない。


大きめのマンションに彼は住んでいて、部屋も結構な広さだった。
そこに新聞紙を広げて真ん中に椅子を置く。


「座って。」

「日比谷さんが切るんですか!?」

「大丈夫だから。俺、美容師免許持ってるし。あ、服は上だけ脱いで。」


僕は渋々椅子に座った。

すると彼が鋏と写真を一枚持ってきて、写真だけを僕に手渡した。


「何ですか?この写真。」


高校の修学旅行の写真か何かだろうか。全員が私服で楽しそうにはしゃいでいる。


「その右端、俺だから。」


その写真の右端に目をやる。


「嘘っ!?これ日比谷さん!?」


悪いとは思ったけれど僕は噴き出してしまった。

だって右端の男の子は眼鏡をかけていて、着ている服も最高にダサくて・・・。
今のお洒落な赤い髪色の日比谷さんとは思えない。


「笑ってんじゃねえよ!」


日比谷さんは恥ずかしそうに写真を僕の手から取り上げた。
僕はと言えば可笑しくてたまらなくて、お腹を抱えて涙しながら笑った。

すると日比谷さんは僕の頭をがしっと掴んで固定させる。


「頭動かしたら切れねえだろ。じっとしてろ。」


可笑しいのをこらえながら頭を固定させる。

日比谷さんは僕の髪に霧吹きで水をかけた。