夕食の時は家族三人で必ず食事をするようにしている。
それは母と父の教育方針からだった。
たった三人の家族なのだから、夕食ぐらいは三人で摂る。

けれど母も父も当然仕事が忙しくなる時期はあって、三人で食べれない時も何回かあった。
この日は母と二人で食事をすることになった。


「飛絽彦、今日会った日比谷君いるでしょ?彼ね、私のブランドが大好きなんですって。」

「そんなのお世辞で誰だって言えると思うけど。」

「もう、なんでそういう口の利き方しかできないの。」


母は呆れたようにそう言い放った。

僕は表情一つ変えずにステーキを一口大に切って口に放り込む。


「別のアパレル会社で働いているんだけど、今日たまたま仕事でその会社に行くことになってね。
そうしたら小声で“僕、貴方のブランドに憧れてこの業界に入ったんです”って言ってくれて。嬉しかったから家に招待したの。

そうしたら初期のコレクションからずっと見ててくれてるらしくて、あの時のあれはよかったとか凄く細かく知ってて驚いたわ。
あんなに私のブランドの情熱持ってくれてる人、初めて会ったかも。」


母さんは嬉しそうにそんな話をしていた。

初期のコレクションから見てるってことは、お世辞で言った訳じゃ無いのかもしれない。


「でもそう言って媚売って引き抜いてもらおうって魂胆かもよ。」

「またそんなこと言って。日比谷君はそんな人間じゃ無いと思うのよね。
でも引き抜いてあげようとは少し考えてるの。
彼のデザインを見たんだけど、私のブランドにかなり合ってるのよね。しかも今働いている会社、凄く小さくて可哀相なのよ。
最初はショップ店員でもいいから雇ってあげて、そこから上に来てもらえばいいかなとは思ってるんだけど・・・。」


彼のことなんて知ったことではないし、母さんの好きにすればいい話だ。


「僕にはどうでもいいことだよ。騙されないように気をつけてね。」

「飛絽彦!なんで貴方はいつもそうやって・・・。」

「ご馳走様。」


母の怒鳴り声に耳を傾けないようにして、僕はその場を離れた。


説教は好きじゃない。