電車を降りてすぐの所に映画館があり、シーナの言っていた映画が上映されていました。

タイトルは『モーツァルトとクジラ』。
アスペルガー症候群という精神病を抱えた男女のラブストーリーだそうです。

シーナはチケットを買って私のところへとやって来ました。


「チケットと・・・はい。」


そう言って差し出されたのは可愛らしいクジラの形の置物のような物。


「ここの劇場で鑑賞券を買った人についてくる特典だってさ。
クジラの形の入浴剤。可愛いから僕の分もマコにあげる。」


半透明の、まるでゼリーのような入浴剤が私の手のひらに二つ。

微笑むシーナを見て、ほんの少し涙が浮かんできました。
私はね、こんなにもくだらないことで泣けてしまうのですよ。

ねえ、シーナ。
貴方はそれに気付いているのでしょうか?



映画館の薄暗い照明は、いつもと少し違う気分にさせます。

隣に座るシーナにいつも以上に緊張するのも、素敵に見えるのも、きっとそのせい。
するとシーナが横目で私を見ます。


「今、ドキドキしてるでしょ?」


あっさりと的を射られた私は、目のやり場が無く俯いてしまいました。

シーナはその反応を見てクスクス笑います。


「マコって本当に僕のこと好きなんだね。嬉しいよ。」

「やめてください・・・。」


もう恥ずかしくて死にそうです・・・。


「ねえマコ、キスしていい?」


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空耳、でしょうか?
今おかしな言葉が私の耳をすり抜けて行ったような・・・。

そして気付いた時には、シーナは私の頬にキスをしていました。


頬に触れるだけの柔らかなキス。



そうして上映の合図が鳴り始め、辺りは暗くなります。



私は一人、爆発しそうな胸を抑えていました。