「そういえばさぁ」
雄一は話し始めた。
「なんだ?」
忍は運転をしながら静かに聞いた。

「朝大作を描き終えて、あの岩んとこで一服してたんだ。」
「ああ」忍は雄一が大作を作ったあとそうする事を知っている。
「そしたらなんだか人の気配を感じてさ、その方向を見たら、
4時半にも関わらず、子どもが立ってたんだ。男の子が」
「はぁ?!なんだそれ。」
忍が素っ頓狂な声を出した。
「いや、俺もびっくりして、話しかけたんだが、すぐに逃げられたんだ」
雄一の声が少し大きく張った。
「また、幻覚でもみたんじゃないの?ほらお前、子どもの頃もいろいろ見えないもの見てたろ?」忍は半信半疑でそう言った。
「あれは、違う。俺は何でも見えてた訳じゃない。」雄一は少し憮然とした。
「うん、知ってる。花だろう?光る花。俺も子どもの頃、お前が指した花のあるらしい所見てたけど見えなかったもんなぁ」思い出すように言葉をつなぐ忍。
「でもそういうのじゃないって。普通に子どもだよ。幽霊じゃない」
幽霊じゃない。でも静かだった。とても静かで、本当に生きている感じではなかった。
「なにか、不思議な子だったな。」

雄一は思い出して、やはりあのとき追いかけるべきだったかなと少し後悔した。

「ま、夏休みに田舎に連れてこられた子どもが、寝付けなくて散歩しにきたってとこかな」忍が冷静に分析してみせた。

「そう…か。そういえば今、夏休みなんだな。」
雄一もそれに納得したようだった。が少しなにか心の奥がひっかかっていた。
でももうそれ以上を語る気にはならなかった。