ガレージの外は広い庭になっている。

その庭の境目もなくして、また広い道が木々の生える森へと広がっていた。
人通りは滅多に無い。
庭には、腰がおろせる程の岩がいくつかあるだけだ。
雄一はその一つにいつも座ってタバコをふかす。
「今日は随分青い時間が長いな」
雄一がそこに座ってから、もう30分は経っているはずだった。
夏のこの時間だと、
青い時間はすぐに明るい朝の気配を漂わせ始める。
だが今日は違っていた。
雄一が一番好きな蒼が、いつまでも続いていた。

ふと、何かの気配に気づいた。
ちょっと離れた岩の側に、12才くらいの男の子が経っている。
「?」
こんなところになぜ男の子が?
それにこの時間だ。
近所の子か?
だが男の子は雄一の方を見つめたまま、微動だにしない。
そしてその目は何を訴える訳でもなく、ただ静かに雄一を見つめていた。



「きみ、どうしたの?こんなところで」雄一は子どもに話しかけた。

「…」返事は無い。
しかし子どもは変わらずに雄一を見つめる。
そしてやはり微動だにしないままだった。
ただ、彼がまとう空気が、なにかとても透明感があり、涼しげであることを感じていた。
「ねぇ、こんな時間に何してるんだ?近所の子?」
そう言い終わろうとした時、子どもが口を開く。
「。。。。」
何かを言った。
だが声は出ていない。
口が動いただけだ。

「え?ごめん聞こえな…」
雄一が聞き返そうとした瞬間、男の子は背を向けて静かに奥の木々の中へ消えた。
走る足音も聞こえなかったが、その物腰はとても軽やかであり、あっという間であった。

雄一は追いかける間もなくそれを呆然と見送った。
少し気にはなったが、
彼が去ったすぐから太陽がまぶしく登ってきた。それと同時に突然の疲労と眠気が押し寄せてきた。
「さすがに徹夜の疲労が来たか。」そうつぶやきながら部屋へと入る。
一度振り返り森を見たが、やはり既に誰の陰もそこには無かった。