完成したのは朝の4時だった。
暗い夜が朝の光に吸い込まれ、消えてゆく。

雄一はその時間が好きだった。
この薄明るい世界に身を置くと、
いつも、子どもの頃に見た、淡い色の、光る花を思い出した。

あれは幻覚なんかじゃなかった。
それが非現実的だということは大人になってからよく分かったが、
現実的か非現実的かということすら知り得ない子どもの頃に
何度も確実に見ていたものだ。

人それぞれに、見えるもの、見えないもの、そういうものがこの世にあるのが事実なのだ。

この世の全ての人間が全く同じ世界を見ている訳ではない。
一人として、同じ人生を歩んでいないのと同じだ。


雄一はガレージの灯りを消し、外の青白い世界で一服していた。


静かな青い世界に、
男の吐き出すゆるやかな煙が、青の粒子とともに、空へのぼり、消えていく。

今描き終えた絵は、話題になるに違いない。
どの作品もそうだが、今回は特別に渾身の作品だ。

そして今朝の青は、やけに美しいじゃないか。
きっとこの絵が世に生まれてきた事を祝福してくれる蒼だ。


大作を生み出した興奮の余韻と、まだ誰も目覚めていないだろうこの朝の世界を独占した気分に浸っていた。