絵の具だらけのTシャツ。
弛んだズボンに素足が乱雑にのびている。
顔にはくしゃくしゃの髪がかかって、
それをめんどうそうに何度も上げている男。
無精髭は伸びているが、端正な顔をしている。

男が見つめるのは
壁一面の大きさをキャンバスにした描きかけの絵だ。
男はガレージをアトリエ代わりにしていた。

人を魅了する斬新な色使いで、絵画の世界で一目置かれている異端児だ。
年は34になるが、26,7ぐらいにしか見えない。

男は黙ったまま、鋭い目で、じっとキャンバスを見つめ固まっている。

男にとって、絵を描くという事は、魂を込める様な行為である。
好きだとか、描きたいものがあるとか、腕を上げたいとか、
そういう類いの事柄ではなかった。

絵を描くという行為は、まさに、生きると同じことだった。

息をせずにはいられないのと同じだ。
絵を描かずには生きられない。
そういう必然的なもの。

男は鋭い目をそのままに、
突如動き出す。

何かに突き動かされるかのようにひたすら腕を動かした。
その様はまるで、キャンバスに魂を叩き付けるかのような勢いだった。

激しい衝動で描きた足され、色を増してゆくキャンバス。
それと同時に男の体からは玉の様な汗が吹き出ては流れる。
男は熱さなど感じないと言う具合に、したたる汗も構わずに描き続けた。